MBC「第4共和国」(1995〜96年)
10.26配役編
◆前置き「第三共和国」(1993年)

 「第4共和国」の話に入る前に、少しだけ前作「第三共和国」の紹介。



左:大門刑事部長(渡哲也)朴正熙。右は確かJP氏だったような…。



 このドラマ、ハッキリ言って、かなり出来が悪い。実録政治ドラマという事で、期待を大にして見たのだが、オープニングテーマからして萎えた。そこら辺の学生を掴まえて作らせたような実物に似せた塑像を並べて、それをパンしていくだけの非常に簡単な映像。軍隊行進曲を思わせるような音楽は面白かったが、却って重厚さには欠けていた。
 とにかく全体を通して、金はかけませんでしたという作り。肝心な5.16場面はほとんど印象に残らず、ひたすら議論口論が続く。“恐怖政治”の象徴であった中央情報部による拷問場面は一切ナシ。暴力的な場面は金炯旭によるビンタ一発だけだった。その金炯旭が赤い水玉模様のパジャマを着ていたりするのは、マジなのか、ギャグなのか。
 究極的に可笑しかったのが、ドリフのセットのような作りの大統領執務室。ドラマの後半になるほど、見ていて監獄に閉じ込められているような錯覚に陥るほど、屋外撮影場面がない。狭くて辛気臭い執務室の中で、朴正熙は終始黒メガネをかけっ放しだった!
 更に気になったのは、実物とは似ても似つかぬ容貌のHRこと李厚洛氏。俳優さんには失礼だが、HR氏御本人はさぞやガッカリした事だろう。
 そして車智K……アレは一体、何処から連れてきた野獣なのか…?



◆前作を覆す出来映え「第4共和国」



 チャチなセットでかなりガッカリさせられた前作「第三共和国」から僅か2年後、驚くべき変貌を遂げて「実録共和国シリーズ」が帰って来た。
 95年に放送された「第4共和国」は、セットもアクションも構成も前作とは比べ物にならないほどの出来映えを見せてくれた。

 「第4共和国」は主に、朴正熙政権の後半部分に当たる「維新体制」を中心に展開される。ドラマの全回を通しての主役は言うまでもなく朴正熙大統領であるが、1〜2回ごとにテーマが分かれており、そのテーマの主役となる人物はそれぞれ異なっている。
 朴正熙と「維新体制」は金載圭情報部長の銃口によって終わりを告げるが、このドラマでは、その終焉となる劇的な場面から展開される。



10.26場面の主な配役
朴正熙
李チャンファン
金載圭
朴根N
車智K
李大根
全斗煥
朴容植
金桂元
金サンスン
鄭昇和
チョン・スンヒョン
朴善浩
李ドンシン
朴興柱
ノ・ヨングク
二人の女性
左:ナ・ギョンミ
右:チョン・ウンス
崔圭夏
金ソンギョム
ブルースター
イ・ハヌ

オマケ
朴贊兢
金ギヒョン


 前作「第三共和国」と配役が同じなのは、車智Kを演じる李大根(イ・デグン)のみで、後はほとんど入れ替わっている。
 李大根は、80年代の韓国映画を代表する俳優で、前作では猛烈に雄叫びを上げる、何だかほとんどヒトを止めてしまっているような車智K大尉を演じていた。今作では、滑稽ではあるが、かなり人間味のある車智K像となっている。第27、28回では、「車智Kと警護室」というテーマで中心的に取り上げられ(と言うか、ほとんど李大根ばかりの2回)、ドラマを通しても重要な役割を占めている。
 金載圭を演じる朴根N(パク・クニョン)は、前作では、車智Kを宥める役割に徹していた、比較的おとなしめの朴鐘圭を演じていたが、今作では、その車智Kと激しく衝突する金載圭を演じている。朴根Nも韓国のドラマや映画で度々活躍する俳優で、かなり多くの賞を受賞しているようだ。今作での金載圭は、ストレスを溜め続け、悲壮感を強く漂わせる、何処となく視聴者の同情を買うような人物像に仕上がっている。金載圭を演じるに当たって年齢的な差がなかった朴根Nは、髪型や眼鏡などで、ますます本人に似せた役作りをしていた。
 ドラマの主役を務める李チャンファンは、容貌が実物にそっくりというだけでなく、妻・陸英修を亡くした後の孤独で侘しい朴正熙大統領を巧く表現している。叱責場面が多いながらも、そこはかとなく哀愁を漂わせているのだ。個人的には、数ある朴正熙を演じたソックリさんの中でも、この李チャンファンが秀逸であると感じている。
 金載圭が“兄貴”と慕う金桂元秘書室長は、何故か8・2分けで、ちょっとおマヌケで小心な感じである。金載圭が朴正熙を撃った後、四つん這いになって逃げ出す様は、とても元陸軍参謀総長には思えない。
 特筆すべきなのは、全斗煥を演じる朴容植(パク・ヨンシク)である。彼は、全斗煥政権当時、“その容貌があまりにも大統領閣下に似すぎていて不謹慎である”というワケの解らん理由でテレビ出演禁止になってしまったという曰くつきの俳優である。全斗煥氏と朴容植氏は、その後、和解するが、全氏によると、側近が勝手に判断してやった行為なのだと言う。当時は、大統領の名を公に口に出す事すら憚られる時代だったようだ。朴容植は、その全斗煥自身を演じる事によって“恨”を晴らす事になったのだろうか。ちなみに、この件は、日本の新聞でも報道され、クイズ番組のネタになった事もあった。常に大声でハキハキと話す朴容植の全斗煥は、12.12の場面では、満足げな入浴シーンが出てきたり、ちょっと滑稽に描かれている部分もある。「4共」と言い、「5共」と言い、頭の大きめの役者さんが演じる事の多い彼だが、実物の方が、もっと均整は取れている筈だ(笑)。
 朴正熙役の李チャンファン、崔圭夏役の金ソンギョム、ブルースターCIA支局長役のイ・ハヌは、10年後の「第5共和国」でも同役を務めている。
 最後の「オマケ」の人物は、金載圭の釜馬事態視察場面で登場する朴贊兢中将。「第5共和国」を御覧になっている方は見覚えがある筈…。そう、「5共」で張泰玩役を演じている金ギヒョンである。ココでは、ほんのチョイ役なのだが。





宗教音楽を思わせるようなイントロから、壮大な合唱曲に!
前作のおバカさ加減など微塵も感じさせないオープニングテーマ。
「5共」と同じ作曲家で、「5共」よりもテンポは遅く、むしろ雄大。



 この「第4共和国」、全編通して激しい議論の応酬がある。登場人物が大声で怒鳴り合い、時には罵り合い、車智Kに至っては頻繁に拳銃を抜いて、相手に突きつける有り様である。しかし、現実に、当時の政権闘争は直情的かつ暴力的でもあって、実際に警護室長が拳銃を抜いたり、国会議員が椅子を振り上げたりする事が度々あったようだ(甚だしくは金斗漢のように、議場に糞尿を撒く者もいた)。
 10.26事件に至るまでの“核”となる金載圭vs車智Kの権力闘争も、ドラマの中で激しい口論場面で表現される。朴大統領の前では物静かに努める金載圭が、車智Kに対しては豹変して激昂する様が面白い。派手な口論を繰り返していた二人だが、やがて、それは金載圭の中で、“殺意”という冷たい炎に変わっていく。朴根Nの射るような視線が不気味さを漂わせる。








 しかし、やはり圧巻なのは、朴正熙を演じる李チャンファンである。「4共」での彼は、かなり痩身で、白髪混じりで、やや血色が悪い。一見風采の上がらなさそうな彼が、叱責場面で見せる鋭い眼光は、見ていて戦慄を覚えるほどだ。10年後の「5共」では、彼はかなり太って、顔にもハリが出て、むしろ若返った感じであるが、貫禄は一層増して、今現在の彼の演技で朴正熙と維新時代の再現ドラマを見たいくらいである。個人的には、「4共」「5共」通して、この李チャンファンが出色だと思う。「4共」はキャスティングで「コリアゲート」に遅れを取ったと言うが、とてもあぶれモノとは思えない。残り物には福があったという事だろう。
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