WIN金桂元インタビュー第3回
宮井洞 唯一の 生存者 ・金桂元「私は 新軍部 執権野望 犠牲者第1号」
10.26事件で
裁判を受ける金桂元。



◆私が金載圭を押したから拳銃が故障した

――金載圭が犯行を終えて出て来て、金室長に、「兄さん、私はやる時はやる。これで全てが終わりました。兄さんは保安にでも気を配って下さい」と言うなり、金室長が頷いたと捜査、及び裁判記録に出ています。これは事前共謀、少なくとも暗黙の了解をしたと見るべきではないですか?
金桂元:当時の状況を一度想像してみなさい。金載圭の眼はそれこそ殺気立っていました。見つめるだけでゾッとするような眼だったんです。人を…、それも大統領と警護室長を撃ち殺してきた金載圭ですよ。そんな男が何をするかわからない。人は、私が怯えて逃げたと非難しています。確かに率直に言うと恐ろしかったのです。そんな状況で平気な人間が何処にいますか。私は何とかして金載圭の眼差しから逃げたかったので、素直に「わかった、わかった」と言ったのだと思います。早く彼に何処かに消えてもらいたいという一心だったのです。

――大統領殺害という犯行でありながら、秘書室長としてあまりにも消極的な行動ではないかという非難がありますが。
金桂元:私の主張は捜査段階と裁判に全く反映されていなかったのだが、金載圭の拳銃が故障したのは、私が横で銃を叩いたからだ。

 当時、金載圭が犯行に用いた拳銃は、ドイツ製の7連発32口径ワルサーPPK。長さ15.5cm、重さ570gに過ぎない護身用拳銃だった。金載圭はズボンのポケットにこの銃を入れておいた。金載圭はこの拳銃を取り出し、隣りの金室長をポンと叩くと、「兄さん、閣下にちゃんとお仕えして下さい」と言って、車智Kに向けて、「この虫けらみたいなガキ!」と叫びながら一方を撃った。そして間もなく大統領の胸部に向けて引き金を引いたのである。

 車智Kに向けた第一弾は彼の手首を貫通した。車智Kは、「金部長、何故こんなことを」と言って立ち上がると警護員を呼びながらトイレに逃げ込んだ。金載圭は朴正熙に向かって一発撃った後、続けざま引き金を引こうとしたが、発射されなかった。うろたえた金載圭は次に撃鉄を起こそうとしたがそれも動かなかった。彼は瞬間、車智Kが武装しているのではないかと切迫するや、扉を蹴破って駆け出して行った。代わりの拳銃を入手してくるためだ。この三発目の銃弾が発射されなかった原因が、まさしく自身が金載圭の拳銃を手で弾いたからだと金桂元は主張するのである。

金桂元:拳銃に関して私ほど詳しい人間は多くありません。陸軍大学にいる間、射撃の試合を行なえば、私と金載圭が常に1、2位を争ったものです。その銃は私もよく知っているのですが、そばで名刺1枚で塞いでも薬莢がつかえてしまうのです。それがその銃の弱点なのです。詳しいことまでは思い出せませんが、私が隣りで金載圭を押すか、銃に触れるなどしたので薬莢が詰まったのです。

 しかし、対面で朴大統領の隣りに座っていた申才順は、「金室長が金載圭を止めるどころか、立ち上がるところすら見ていない」と主張した。
 また拳銃の故障についても、「月刊朝鮮」の趙甲濟編集長は、「薬莢が抜けずに弾丸が装填されなかったのではなく、ある衝撃によって安全装置が降りてきてしまったためだ」と解説する。金室長は、薬莢が抜けなかったにしろ安全装置が降りたにしろ、自分が触ったからだと主張している。もう少し綿密な調査を必要とする部分である。

――犯行が進められた状況をもう一度説明して頂けますか。
金桂元:率直に言ってあまり記憶に残っていないのです。一発撃ったのか二発なのか…、とにかく突然起こったという事だけは記憶しています。それで私は、「灯かりをつけろ」と叫びながら、スイッチを探そうと壁の辺りをうろうろしていました。

 その時、灯かりが消えたのは、地下室のボイラー工員が銃声が起きるや、ショートしたものと思ってスイッチを切ったためだった。灯かりは15秒ほどして復旧した。

 ――酒に酔っていませんでしたか?
金桂元:洋酒一瓶半を朴大統領と私で回し飲みしました。実際、酔いがまわってくる量です。だからといって、眠り込むほどではないのですが…、かなり酔っ払っていたと思います。

 当時、金載圭は肝臓が悪くて酒を飲めない状態で、車智Kは警護責任上、酒を辞退していた。そんな訳で、朴大統領と金桂元室長の間で洋酒を空けた。酒は朴大統領が愛飲していた“シーヴァスリーガル”で、水割りにしてヤカンで注いで飲んでいた。

――裁判の時、酒に酔ってはいなかったと証言したではありませんか。
金桂元:そうです。実際、弁護士からも酒に酔っていたことを認めるように勧められましたが、私の口からはまさか酒に酔っていたとは言えないでしょう。とにかく、大統領に仕える秘書室長が酔っ払って自分の責任を果たせなかったなどとは弁解できませんでした。


◆金載圭の眼を怖れて避けたかった

――金載圭が金室長に、「閣下に正しくお仕え下さい、兄さん」と話したとすれば、それは少し変ではないですか?共謀したというのなら、そんな事を言うわけないでしょう。
金桂元:私も同感です。

――朴大統領は何と言われましたか?
金桂元:金載圭が拳銃を抜いて車智Kを撃つと、「これは何の真似だ」とおっしゃったと思います。

――金載圭が朴大統領を撃つところを見ましたか?
金桂元:いいえ、見ることができませんでした。私は銃声が起こって車智Kが、「金部長、どうしたんだ」と言って立ち上がり、トイレに駆け込んで行くのをみて事が起こったことを覚えています。

 金室長は、朴大統領が二発目の銃弾を受けるところも見なかったという。金室長は、当時朴大統領が晩餐会場の食卓下に身を隠したのだと思ったようだ。彼がそのように考えたのは理由がある。ちょうど一ヶ月前、その部屋で全く同じメンバーで“大行事”が行なわれたのだが、大統領が「部屋の構造がよくできている」と感心していたからだ。
 そして、「何かあったらこの下にもぐって隠れればいいんだ」と言って、食卓の下に体を入れて隠れる実験をして見せた。食卓の下は、日本の畳部屋のように、座った人が楽に足を伸ばせるほどポッカリと空いていた。また、足が届く所はバネを入れてクッションになっていた。

――犯行直前に晩餐会場で大統領が来るのを待っていて、金載圭が「今日あいつを片付けます」と話した時、金室長が頷いたというのが合同捜査本部捜査結果です。どうですか?
金桂元:儀礼的な話をしただけですよ。殺すという話が出ただけで本当に殺すのですか、そう言っただけで。前にも似たような話が何度かありましたが言葉だけですよ。

 金室長は軍人時代のアメリカ人顧問官との逸話を紹介した。作戦中、配下にいた大隊長の一人が顧問官との意見の食い違いで「この野郎、殺してやる」と言ったのを、機転がきかない通訳官がこの台詞を直訳してしまった。それを聞いたアメリカ人顧問官は顔色を変えてジープで逃げてしまい問題になったことがあるという。

――金載圭が犯行後、「兄さん、全ての事が終わりました。私は言ったことはやります。兄さんは保安を徹底して下さい」と言うなり、「それなら他の人達には何と言おう」と尋ねませんでしたか?金載圭に「閣下が過労で倒れたとか、適当に言っておいて下さい」と言われて、「わかった」と返答しました。これは、金載圭の第二次合同捜査本部自筆陳述書に書かれた話です。これを根拠に、軍・検察は金室長が金載圭と事前共謀を行ない、事件後に金載圭の指示を受けたと解釈しました。どのように考えますか?
金桂元:詳しくは思い出せないが、そのような話が行き交ったのは事実のようです。しかし、当時の状況を再確認してみましょう。金載圭は閣下と警護室長を殺害した直後です。殺人を犯した人間を見たことあるのか知らないけれども、その現場にいたら何と答えられますか。私は何とかして金載圭の視界から抜け出したかった。そうでもしなければ何もできないでしょう。銃を持っている金載圭が見ているのに逃げられるわけないじゃないですか。

――金載圭の計画的な犯行である事を明らかにする、金載圭の儀典秘書・尹炳書(ユン・ビョンソ)の証言があります。それによると、金載圭は4時10分頃に車智Kから大行事があるという電話を受けてから、4時40分頃に鄭昇和総長に晩餐会場に来るように電話をした。これは尹炳書の合同捜査本部陳述書にある記録です。金載圭が挙事を既に計画していて鄭総長を犯行現場に呼んだのではないかという事が状況証拠からしてわかります。これをどのように受けとめますか?
金桂元:そんな証言があったとは知りませんでした。ただ、晩餐の前に私が金載圭から聞いた話とは違っているので、私としては信じられないですね。金載圭は、私が「崔榮喜将軍と前もって約束をしておいたのに、突然の行事が入って申し訳ないことをした」と話すと、自分もそうだと言って鄭総長との約束の話題を持ち出してきました。キャンセルもできないので、金正燮国内担当次長に接待させたと話していたのです。

――その時の金載圭の口調とか言葉などで不審な点を感じることはできませんでしたか?
金桂元:全く不審な点は感じられませんでした。(金載圭の)鄭総長との約束は随分前からする予定だったのを私は知っていましたし、参謀総長と会うのも時局を考えれば中央情報部長として当然のことだったからおかしいとは思いませんでした。

[チョン・ジェリョン月刊WIN次長]

第4回に続く
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