10.26公判記録
◆金載圭の最終陳述

 裁判長殿、及び審判長殿。最終陳述の機会を与えて下さり感謝致します。本人ほか被告人達は今、内乱罪で起訴され裁判を受けています。
 ところで、我が国では、合法的に樹立された民主党政権(※張勉政権)が5.16革命によって追放されてしまいました。10月維新は自由民主主義を抹殺したもう一つの革命でした。今回の10.26革命は、この国の建国理念であり、国是である自由民主主義回復のために行った革命です。自由民主主義は我々が6.25(※朝鮮戦争)を通じて受難に耐えながら多くの人々の生命を捧げて守ってきたものです。
 この革命がどうして内乱罪で裁かれなければならないのでしょうか。自由民主主義を老若男女三千七百万我が国民が希っているのは事実です。また10.26革命は純粋で、綺麗なものです。政権欲や私利私欲がある訳ではありません。ひたすら自由民主主義のためです。10.26革命の結果、自由民主主義の回復は保障されました。崔大統領におかれましては、権限代行の時期に約束されたではありませんか。崔大統領は現在の任期を待たずに途中で辞任すると述べられましたが、これは過渡政府を意味するもので、その過渡は自由民主主義を意図する過渡ではないのですか。
 従って、10.26革命は完全に達成されました。国会でも大統領緊急措置第9号の解除決議を行いました。10.26革命がなかったら、こういった事がどうやって起こり得るのでしょうか。夢見る事も許されません。これぞ革命の成功を立証するものではありませんか。10.26革命は、鋭利で強力な維新体制に正面から挑戦して破壊する事に成功しました。そして民主回復革命は完全に成功したのです。歴史上、最も正々堂々たる革命です。
 革命としては無血革命が最も好ましいものです。しかし、無血が不可能ならば、最小限の犠牲は伴わなければなりません。民主回復と朴大統領閣下の犠牲は宿命的に不可分の関係にあり、閣下の犠牲なくして民主回復はあり得ません。朴大統領閣下を失ったのは心痛の極みです。しかしながら、維新以降7年が経過し、永久執権が保障された以上、最低でも20年ないし25年以内の民主回復は望めません。心は傷むが、国民の犠牲を防ぐために、この革命は必然的だったのです。
 我々みな感傷的になり、感情が高ぶっているので、物事の判断を誤りがちになっています。私に対する内乱の審判もこういった理由からだと思われます。我々は感傷や感情にとらわれずに、政治的現実は現実通りに、感傷は感傷として厳然と区別すべきです。私は法についてはよく分かりませんが、時間や状況を選り分けず、公正な法を適用するために判例を重要視しているのではないかと考えています。私は、今後自分の命を助けてもらうために最終陳述を行おうとしているのではありません。
 男として生まれ、己が生きる名分を見い出せた事を嬉しく思っています。私は死ぬ事があっても、来世に生きるためとか、命を助けてもらおうとおもねる必要はないのです。けれども、10.26革命の理念と精神と、その成功をはっきりさせるために、その目的を達成するためには、法が許す限り私は闘争するしかありません。
 5.16革命や十月維新が不当なものでないとすれば、10.26革命も正当なものであります。10.26革命が違法だとすれば意味のない革命になってしまいます。
 我が国は自由民主主義が国家理念であり、国是であります。全国民が命をかけて守ってきたものです。どんな理由であれ、抹殺できるものではありません。ところが、十月維新によって理由もなしに抹殺されてしまったのです。十月維新は国民のための体制ではなく、朴大統領閣下の終身執権のための体制でした。大統領は自由民主主義体制を保護する責任と義務はあっても、抹殺する権限など誰からも受けられないし、また与える事もできないのです。
 体制反対、民主回復の声が高まると、緊急措置第9号が発動されました。数多くの人達が拘束されました。この火は永久に消えず、ずっと燃え広がっていきます。情報部長として把握したところによれば、維新体制を維持しようとすれば、政府と国民の間で激しい攻防戦が繰り広げられます。李承晩大統領と朴大統領を比較すると、李承晩大統領は引き際を知っていましたが、朴大統領閣下は多くの国民が犠牲となっても、最後まで退くような方ではありません。
 本人(※金載圭)はそれを知っていたので、維新の礎を担う立場にあった人間ではありますが、それを傍観する事ができずに、顧みてその源を破壊したのです。10.26革命の目的は、1.自由民主主義の回復、2.国民のより多くの犠牲を防ぐ、3.赤化防止、4.民主回復によって米国との関係を修復し、国防、外交、経済上の国益を図る、5.国際社会において、独裁国家として失墜した名誉を回復する――というものであります。
 上記の全てが10.26革命の決行で保障されました。ここで一言、確実に言っておきたいのは、私は大統領になろうという考えは持っていないという事です。私は軍人であり、革命家です。軍人が政権を握れば独裁になる惧れがあります。独裁はダメだと考え、革命を起こした私が再び独裁の要因を作れるでしょうか。私は人の義理に背き、大統領の墓の上に立つほど堕落した道徳観は持っていません。
 革命の決行は成功しましたが、革命の課題は成し遂げられませんでした。この国には5.16以後、19年の間に多くのクズがたくさん蔓延っています。こういった土壌で自由民主主義が回復しても、出発と同時に再び苦難を受け、遂には自由民主主義が悪であるという偽りの非難を受ける事になります。このようなクズを排除しないで、社会正義が生かされるでしょうか。
 6.3事態の折、私はこれを鎮圧するためにソウルに戒厳軍を率いていたので、当時の事情をよく知っています。6.3事態が起きたのは、自由民主主義を徹底したためではなく、四大疑惑事件(※政治資金汚職事件)のような非民主主義的な事を行ったからで、悪循環に陥ったのです。四大疑惑事件は国民を愚弄したものです。国民の財産権を侵害した行為で、莫大な金を蓄財しておきながら責任を負った者は今までに一人もいません。その時に蓄財された金はビタ一文も回収されませんでした。これを始末しないで、革命課題を遂行したと言えるでしょうか。
 現在、この国には核心がありません。こういった状況は最も困難で危険です。4.19の時のような主人がいないのです。4.19の後のように、力ある者がのさばれば、悪循環が再びやって来ます。これを防ぐ事ができるのは、ただ一人、民主回復革命を指導した私だけです。自由を回復し、新しい政権について軍首脳と協議して、その政権を保護し、民主党政権の前轍を踏ませないようにするというのが私の考えでした。
 建国以来、今まで一度も平和的な政権交代をした事がありませんでした。4.19、5.16など悪循環が繰り返されていました。こうした悪循環をいつまで続けるのでしょうか。政権をスムーズに移管させる事を定着させたかったのです。崔大統領閣下に申し上げたい。自由民主主義が目前に来ている事を御存知でしょう。自由民主主義のために混乱が起きる事は絶対にありません。自由党時代は不正選挙や国民疑惑事件のために混乱がありました。度の超えた急激な変化は問題になりますが、革命課題は3〜5ヶ月もあれば十分です。むしろ早急の民主回復をせずに、遅らせて来年の3、4月に民主回復運動が起きれば大変な事になります。問題を引き起こすような要因は予め無くしておくべきです。
 立法府に申し上げたい。真の民意を代弁する国会であれば、国民の願いを受け入れ、10.26民主革命を支持する決議をしなければなりません。もし、それをせずに民主回復されたなら、自由民主回復のために国会議員達が何をしたのかと問いたい。緊急措置9号の解除決議は枝葉的なものです。もっと緊急を要するものは自由民主回復だけで、自由回復決議こそ根本的な決議なのです。
 私は全てを観念し、静かに目を閉じて考えてみたのですが、私の革命が原因となって混乱が起き、国の根幹すらぐらつくのではないかと心配になりました。崔大統領閣下に今も申し上げたい。感傷に囚われず、私を釈放して共に革命課題を遂行しようではありませんか。国家を磐石の上に築き上げましょう。本当に国の事を考えるなら、理性に立ち返り、冷静に政治的現実を判断すべきです。
 裁判長殿、裁判官殿、連日の裁判でお疲れになっているにも関わらず、長い話を傾聴して頂き有難うございます。死んでもこの感謝の念は忘れません。自由民主主義回復を20〜25年繰り上げたという自負を抱いて私は死にます。大韓民国の前途に自由民主主義が開花してくれる事を祈ります。10.26民主回復国民革命万々歳、大韓民国自由民主主義万々歳。
 この世を去るにあたり、自由民主主義の回復を見られずに死んでいくのが無念であります。しかし全てが約束されているのだから、笑って死んでいく事ができます。私にとっては所信に基づく行動だったので、これに見合う刑罰を下して頂きたい。
 最後に、私の部下は、着実でおとなしい羊のような人達です。無条件に服従し、選択の余地や機会は与えられませんでした。全て私に責任があります。私一人、情報部長の職にあった者が全責任を負って犠牲になる事で十分です。私にのみ極刑を与え、残りの者は極刑だけは免除して頂きたい。特に朴興柱大領は単審なので心が痛みます。極めて着実で潔癖で、家庭的な人なのです。青雲の志を持った人です。軍は無理でも、せめて余生を社会で奉仕できるように、極刑だけは免除して頂きたい。
 長く取りとめのない話で申し訳ありません。これにて終わります。有難うございました。


↓金載圭の最終陳述一部分音声(5分弱)
未対応

※上記の文章は概略なので、実際の音声とは異なります。
※再生はRealPlayerのみで出来ます。ダウンロードはコチラから。


参考文献:

射殺―朴大統領の死(柴田穂/サンケイ出版)
박정희의 유산(김재홍/도서출판 푸른숲)
[ TOPへ戻る ]