10.26公判記録
◆第2回公判

日時:1979年12月8日
場所:第1回公判時と同じ
裁判部:法務士が申福鉉准将が黄鍾泰大領(大佐)に交代した他は、第1回と同じ
検察官:第1回公判時と同じ
弁護人:第1回公判時と同じ

この日の公判は、第1回目の時以上に警備が一層強化された。午前11時40分になると、朴善浩被告人を筆頭に入廷し、金載圭被告人は一番最後に入廷した。被告人らは、裁定申請が棄却された為か、席に着くと、うな垂れたり目を閉じるなどの硬い表情だった。
 金載圭被告人も初公判の時とは違って、微笑もゼスチャーもなく、淡々とフラッシュを炸裂させる報道陣を凝視した。無精髭が生え、憔悴した様子だった。開廷前に手錠を解かれると、髪をかき上げ服を整えて、姿勢を正して左右を見回したりした。
 格好は皆囚人服で、金載圭被告には“101”、金桂元被告には“121”、朴興柱被告には131という囚人番号がそれぞれ付けられていた。席の配置は初公判の時とほぼ同じだが、朴被告が、二人の金被告の間に座っていた。
 しばらくして、裁判の秩序を守るため、報道陣らは開廷宣言の後は移動を禁止するという案内放送があり、午前10時2分前に検察官3人が入廷したのに続き、10時3分に裁判官5人全員が入廷した。
 続いて、裁判長の開廷宣言があり、法務士の発言がまず口火を切った。

法務士:(被告人らに向かって)1回公判の時の人定尋問に異なる事実がありますか?(検察官に)控訴状の内容に変更がありますか?(被告人らに)陳述拒否権を今一度、告知します。それでは、今から事実審理を始めます。
検察官:被告人らは共同正犯で上下関係にあったために、他の被告人がいる所では十分に陳述できないと考えられます。軍法会議法第343条2項によって、分離尋問を要請致します。公訴状部分を公判開始五日前、既に弁護人らに送達した事ですし、被告人との面会も十分に許容したと見ていいでしょう。
裁判長:10分間休廷致します。


 この時、時刻は午前10時8分で、これが一次休廷だった。
 再び10時14分に公判開始。


裁判長:公判調書作成には慎重を期する。

康鳳濟弁護士:法律が定めた弁護人の権利を棄却する事は然るべき事ではありません。

太倫基弁護士:被告人たちの中で、唯一の現役軍人である朴興柱の弁護人です。憲法第108条には、非常戒厳令下で軍人、軍属については単審で裁けると規定されていて、軍法会議法第525条には、戒厳下で軍人は控訴できないようになっています。これは違憲であります。従って、憲法委員会に「違憲可否制定申請」を提出しました。

 続いて申請書を朗読した。

検察官:憲法第108条は、軍法会議法上、軍人軍属には単審だけで裁判を行なえると規定していて、これは又、裁判慣行になっています。裁判部には弁護人の制定申請の棄却を求めます。
太倫基弁護士:検察官が意見可否を決める事はできません。憲法委員会で判断なされなければなりません。
裁判長:10分間休廷します。

 二次休廷に入った。時刻は午前10時24分。公判は半時間と進まず、二回も休廷するほど難航した。
 再び開始した時刻は10時31分。


法務士:軍人について単審制を規定した軍法会議法は憲法に根拠をおいた事なので、違憲ではありません。従って、違憲可否提案申請を受理できません。
太倫基弁護士:この裁判は朴興柱被告人にとっては生死を分ける重要な問題です。
法務士:法廷を侮辱する言葉は慎むように。多くの裁判を経験しているが、こんな事は初めてです。裁判部全体に対する侮辱です。

 このように、裁判部と弁護団が激しく対立する中、全昌烈検察官が発言した。

全昌烈検察官:本法廷に立った検察官の立場を表明して、弁護人の皆様に要請致します。国家元首であられる大統領閣下が凶弾に倒れ、御逝去なされた事に際して、国民の驚きと怒りも鎮まっていない時に、その犯行の元凶である人物を「将軍」と呼んで英雄視する事は、戒厳当局の法遵守の意志と度量を誤って判断する事であり、法以前に人道的にあってはならない事です。どんなに極悪非道な犯罪人であっても公開法廷で法による裁判を受ける事できるという民主的裁判手続きを悪用して訴訟遅延の手段を利用する事は、神聖すべき法廷を政治舞台化して国民の世論に背を向けて、本件犯行を美化し、社会的な混乱を引き起こす可能性があります。このような行為は歴史と国民の前に一点の恥なく法律による公正な裁判を取り扱う弁護団の全ての陳述とはあまりにも異なったものであって、一日も早く本件犯行の実体的真実が明るみになる事を待つ国民の希望に従う裁判の趣旨にも外れる処置として、本検察官は驚愕せざるを得ません。弁護人の皆様も今後の公判進行においては、このような国民の意思を損なわないように、公開された法廷での正当な弁論を通した事件の実体的糾明にのみ尽力して下さる事を望みます。仮に被告人の弁護人らが公益の代表者としての社会正義の実現という使命を捨てて、法的手続きを悪用して金載圭被告人の失敗に終わった国家変乱の企てを分析し、一時しのぎをして真実を誤って導き、社会的混乱を引き起こさせる場合、これは全体的に弁護団の責任で、良識ある国民の厳しい批判を受けるものと警告するところです。
太倫基弁護士:弁護人は国法に従っているだけです。それ以外の目的はあり得ません。検察官が、あたかも弁護人が大罪を犯しているように語るのは遺憾であります。
法務士:申請事由があれば書面で提出して下さい。この裁判は速やかに行なわなければならないので、軍法会議法54条によって、弁護人の裁判部忌避申請を受理せずに進行します。
李炳勇弁護士:検察官の被告人分離尋問要請を棄却して下さい。みな共犯であるが、面前では話せない事案などありません。金桂元被告人にとっては、金載圭被告の話をよく聞いてこそ自己防衛ができます。
金洪洙弁護士:軍事裁判が国民の信頼を得ようとするなら、小さな手続でも弁護人の共感を得なければなりません。同じ態度に出るなら、弁護人は無論のこと国民の信頼も受けることはできません。分離尋問は心理的圧迫を加えて裁判の公正さに疑惑を買うことになるでしょう。

法務士:国民が裁判しません。
金洪洙弁護士:分離尋問は検察が意図する方向に引っ張っていこうというものです。
法務士:軍法会議法343条によって被告人らが他の被告人の面前で十分に陳述できないと見えるので、金載圭被告だけを除き他の被告人は退廷させます。

 ここで、午前10時39分に、三次休廷に入ると同時に金桂元被告以下、他の被告人たちは退廷し、金載圭被告だけが残った。
 公判は10分後再び開始された。


裁判長:大統領が逝去されて持つことになった法廷でありますから、検察官と弁護人らの間の裁判手続に対する論争は自重して頂くように望みます。
李炳勇弁護士:訴訟指揮権は裁判長にあります。弁護人の話の腰を折る事は、法務士の権限外です。民主国家だけに、また事件の比重が大きければ大きいほど、裁判は適法になされなければなりません。「社会混乱を起こそうという陰謀」と話した検察官の発言は弁護団と法廷に対する冒涜であり、適法な手続によって裁定申請した事を「訴訟遅延」などと言った事もまた冒涜であります。発言を取り消して、取消事実を記録に残す事を望みます。
金正斗弁護士:法廷陳述は一つ一つが法律解析と直結する事で、誤差があれば誤った判断を行なう可能性があります。今、法廷では一人の人間が記録係を務めてますが、正確性に疑問が生じます。
金濟亨弁護士:我々弁護団の態度を明らかにするために協議を行なうので、休廷して頂くように望みます。


 午前10時59分、裁判部が弁護団の要請通り20分間の休廷をした。
 再び開始された時刻は11時20分。


法務士:検察官の意見は個人の意見です。意見の食い違いで、実体的真実を明らかにしようという公判を遅延させる事はできません。
太倫基弁護士:裁判部が裁判部忌避申請を棄却した理由を話して下さい。
法務士:一日も早く安定を求め、政治、経済的発展を図るべきだというのが国民の希望です。軍人は一日も早く国防任務に戻るべきだというのが、迅速を要する理由です。
太倫基弁護士:緊急措置は解除されて大統領も新しく選出されたこの期に及んで不安な事などありません。不安ならば緊急措置を解除しますか。
法務士:安保上の問題は誰も大言壮語できない問題です。備えあれば憂いなしの精神で臨まなければなりません。
金正斗弁護士:検察官の発言について、撤回または謝罪を要請したのに、なされないでいます。
法務士:検察官の意見は個人の意見であるから考慮する必要はありません。
金正斗弁護士:検察官は、弁護人らが謀議を行なったと言うが、その根拠を挙げなさい。根拠がないなら、検察官の発言を記録として残さなければなりません。そうしてこそ、後にこの公判でどのような事があったのか分かります。
検察官:1回公判裁判部の数回の警告があったにも関わらず、弁護人は「将軍」という呼称をずっと使用して英雄視しました。裁定申請中、軍法会議法は、国防警備法を整理するために1951年に作られたのであります。このような立法取り下げと判例まで裁定申請をしました。軍人が軍法会議で裁判を受けることは当然の事です。軍人に対する単審制は以前からあったのに、今になって違憲審査請求をすることは何の意図があっての事ですか。手続き上の無駄な時間を利用して公判を遅延させようというものではないですか。これなら解明になりましたか。
金正斗弁護士:金載圭被告に“将軍”という呼称を使ったのは、確定判決を受ける前までは罪人ではないからです。公判手続が適法かどうかは当然扱われなければならない問題です。長い時間をかけて審理されなければならないものであります。公正な裁判であった事を歴史に残さなければなりません。せめて“陰謀”などという話は撤回されなければならないのです。
金濟亨弁護士:取消謝罪を要求したのに、検察官はそれどころか不当な発言をしました。遅延目的などと、何処に根拠をおいて述べた言葉なのですか。判例が万古不変な事はありません。
検察官:全く同じ事実について意見が異なっただけです。これ以上御説明申し上げる必要はありません。
李世中弁護士:検察官の態度は同じ法曹界にある人間に対する侮辱であります。弁護士法は弁護士に社会正義具現と人権を保護する義務があると規定しています。たとえ大統領を殺害した犯人であっても人権はあります。憲法会議に数回参加したが、検察官がこのような事を言うのは初めて聞きました。

検察官:被告人が弁護人の正当な保護を受けられる事については否定しません。検察と弁護人は対等であります。裁判の公正性を疑うのは杞憂に過ぎません。

 このように論議が白熱する中で、昼休みになり、11時50分、五次休廷に入った。
 昼食が終わった後、再び開始した時刻は午後2時定刻。


法務士:この事件の重要性と公判の緊急性を考慮する際は、検察官、弁護人、被告人は実体的真実を明らかにする事には積極的に協力して下さい。午前中あったような論争のための陳述は自重して、今後は発言に先立ち、裁判部の申請を受けて下さい。これに背くようであれば、法に従って処理します。検察官は審理を始めて下さい。
検察官:事実審理に先立ち、一言だけ申し上げます。午前に弁護人に実体的真実を明らかにするためだけに尽力してくれと話す中で、「社会的混乱を引き起こす場合、これは弁護団の責任で良識ある国民の峻厳な批判を受けると警告する」と申し上げましたが、この中で、“警告”の部分を“留意して下さい”と訂正致します。

 続いて、午後2時3分から、金載圭被告人に対する検察官の事実審理が始まった。この時の審理は分離審査であった。
 以降、検察官と金載圭被告との一問一答の内容。


検察官:被告人の職業は?
金載圭:中央情報部長でした。
検察官:在職期間は?
金載圭:76年12月4日から79年10月26日までです。
検察官:被告は、朴大統領と車室長を殺害した事実はありますか?
 金載圭被告が、「朴大統領閣下…使命感云々」という話をしたため、裁判部の制止を受ける。
検察官:質問には返事だけして下さい。射殺場所と時間はいつどこでしたか?
金載圭:10月26日午後7時45分宮井洞にある中央情報部の食堂でした。
検察官:晩餐があるという連絡はいつ誰から受けましたか?
金載圭:午後4時頃に車室長から受けました。
検察官:鄭昇和総長と金正燮第2次長補に連絡しましたか?
金載圭:午後4時15分から30分までの間にしました。
検察官:その内容は?
金載圭:夕食でも一緒に食べようと言いました。
検察官:金正燮次長補には何と言いましたか?
金載圭:午後5時30分までには来いと言いました。
検察官:その前にも鄭総長との晩餐を大統領との晩餐と重なるようにして招いた事があるのですか?
金載圭:そういった事はありません。
検察官:犯行後に総長を利用しようとしたという事ですか?
金載圭:そうです。
検察官:記憶を辿って確実な返事をして下さい。
金載圭:そうしました。その日は殺害を決意して、鄭総長との接触が必要となったために、そこへ呼んだのです。
検察官:被告はいつ宮井洞に行ったのですか?
(金載圭被告は、車室長から電話を受けた時には情報部長事務室にいた)
金載圭:4時30分に到着しました。

検察官:到着後に何をしましたか?
金載圭:二階の事務室の金庫から銃を取り出し、実弾を装填して、撃鉄を前後させて故障がないか点検しました。そして後の計画を構想しました。
検察官:ドイツ製7連発拳銃“ワルサー”を取り出して、実弾7発を装填して故障の有無を確認したのですか?
金載圭:そうです。
検察官:拳銃を書棚の後ろに隠しておいたのですか?
金載圭:そうです。
検察官:金桂元秘書室長はいつ到着したのですか?
金載圭:午後5時10分前くらいです。
検察官:宮井洞事務室で話してから、午後5時50分頃、一緒に食堂に行ったのですか?
金載圭:5時40分から50分ぐらいの間だと思います。
検察官:金室長とは事務室で、どんな話をしたのですか?
金載圭:この先、新民党は鄭雲甲代行体制によって上手くいく筈だという話をしました。
検察官:それから食堂へ向かったのですか?
金載圭:そうです。
検察官:食堂に入る前、庭園の岩に腰掛けて、どんな話をしたのですか?
金載圭:車室長が、野党一人だけの話を鵜呑みにしては、閣下に報告に行ったりするせいで、面倒だという会話をしました。
検察官:それから、どんな話をしましたか?
金載圭:今日、奴(車室長を指すように)を片付ける、と話しました。
検察官:その時の、金桂元被告の反応は?
金載圭:私はやや強い口調でしたが、金桂元室長は何も言わず、若干肯定的な表情を見せました。
検察官:「兄貴、後の事は頼みます」と言ったそうですが。
金載圭:そんな事は言ってません。
検察官:金桂元被告が、もし、その時に拒絶したなら?
金載圭:その場で、「冗談だ」と取り繕ったでしょう。
検察官:検察陳述
(調査過程)では、「弑害現場で金室長も射殺するつもりだった」と供述した事になっていますが。
金載圭:反対意思が明確に示されたら、多分そうしただろうという話です。
検察官:金桂元被告と車室長との関係は?
金載圭:車室長は強硬論者で、金室長は穏健論者です。基本的に考えは違っています。
検察官:例を挙げて、二人の関係が悪いという証拠を出して下さい。
金載圭:金室長が赴任した当初、「車室長は越権行為が甚だしくて不愉快だ。あいつは自分勝手だ」と話されたので、私はこの時、「陸軍大将と大尉出身の者が喧嘩になったら、大将の方が皆に責められます。兄貴が堪えるべきです」と話しました。
検察官:越権行為とは?具体的に話して下さい。
金載圭:その話は聞いてないので、分かりません。
検察官:大統領は、いつ到着されたのですか?
金載圭:午後5時頃です。
検察官:6時ではないのですか?
金載圭:6時5分でした。訂正します。
検察官:誰と一緒に来られたのですか?
金載圭:車室長と一緒でした。
検察官:晩餐席上の座席の位置は?
金載圭:上座に閣下がお掛けになり、その向かい側の右側に金室長、左側に私が座りました。私から見て、左側に車室長が座りました。
検察官:被告と金桂元被告との間隔はどれくらいでしたか?
金載圭:20cmくらいでした。ちょっと体を動かせば触れるぐらいの間隔でした。
検察官:晩餐での談笑した内容は?
金載圭:「挿橋川は良い眺めだった」と閣下がおっしゃって、「何故テレビに出ないのか」とおっしゃるので、誰かが「やる筈ですよ」と答えてました。
検察官:被告は何を話したのですか?
金載圭:話はしませんでしたが、「あの野郎、まだあんな事を考えてやがる」と苦虫を噛み潰す思いでした。(※車智K室長の発言が抜けている)
 裁判部、再び注意を促す。

検察官:拳銃をいつ晩餐場に持って行って、最中に何度、席を立ったのですか?
金載圭:三回です。最初は手洗いのために行き、二回目は鄭総長と金次長補が来ているかどうか確認するために行って、三回目は朴善浩課長に準備態勢を確認するためでした。
検察官:ポケットに拳銃を入れて行ったのですか?そこに拳銃が入るのですか?
金載圭:私は煙草を吸わないので、ライターを入れるためのポケットを特別大きく作っていて、そこに拳銃を入れるようにしておいたのです。
検察官:朴善浩や朴興柱をどのように加担させたのですか?
金載圭:総長と第二次長補が来ている事を確認してから、拳銃を持って旧舘内の中央で彼らに会って加担させました。「今日、私が実行するので、自分に従って処置せよ」と指示しました。
検察官:今晩片付けるという話をした時、どのように彼らが従ったのですか?その前に協議したのですか?
金載圭:それ以前に機密で話した事はありません。
検察官:処置対象
(※標的になる人物)を具体的に明らかにしなかったにも関わらず、彼らは従ったのですか?
金載圭:そうです。
検察官:二人の表情は?
金載圭:「覚悟はできています」と言っていました。
検察官:朴善浩、朴興柱両被告が拒絶する事は考えなかったのですか?
金載圭:いいえ。彼らは、普段から私に忠実な腹心でした。
検察官:どちらかに、「閣下まで含まれるのですか」と尋ねられて、何と答えたのですか?
金載圭:朴善浩に尋ねられて、「そうだ」と言いました。
検察官:朴善浩が、「警護員が7人もいるので、別の機会に先送りした方が良い」と言ったそうですが。
金載圭:「だめだ。私は覚悟を決めている」と言いました。
検察官:彼らとの関係は?
金載圭:朴善浩とは師弟関係で、朴興柱は、私が少将の時から専属副官として仕えてきました。
検察官:両被告にどのように話しましたか?
金載圭:拒否反応を見せるので、総長と次長補も呼んであると言いました。
検察官:両被告は、何と言いましたか?
金載圭:30分だけ時間を下さいと言われました。
検察官:南孝柱
(情報部職員)に晩餐の途中で呼ばれて、その後どうしたのですか?
金載圭:南孝柱の事務室に行って、朴善浩から、準備完了の報告を受けました。
検察官:晩餐場に戻って行って、すぐに発砲したのですか?
金載圭:「閣下、政治を大局的に行なって下さい」と言いました。この時に、金室長を肘で突ついて、「閣下にしっかりお仕え下さい」と言ってから、拳銃を取り出し、車室長に向かって、「この虫ケラのような奴」と叫んで1発撃ちました。それから、百分の一秒と経たぬ内に閣下を撃ちました。
検察官:車室長は致命傷でしたか?
金載圭:いいえ。
検察官:どうして続けて撃たなかったのですか?
金載圭:薬莢が抜けなかったので、撃鉄を後退させながら、外に出ました。外で朴善浩に出くわし、銃を奪って、また入って行って二回目の攻撃をしました。
検察官:二回目は致命傷でしたか?
金載圭:そのように感じました。
検察官:最初撃った時、車室長の腕に当たった事を分かってましたか?
金載圭:分かりませんでした。彼の表情も憶えていません。
検察官:二回目に入って行った時、車室長は何処にいましたか?
金載圭:書棚の後ろに隠れていました。書棚では防御もできないので、そのまま撃ちました。
検察官:車室長が倒れてから、閣下を再び撃ったのですか?
金載圭:閣下の頭部を狙って撃ちました。
検察官:二度目の確認射殺を行なった後、金桂元被告の表情はどうでしたか?
金載圭:表情を見る時間的余裕はありませんでした。
検察官:応接間で金桂元室長に会って、どんな話をしましたか?
金載圭:事は終わったので、保安維持を徹底して下さいと言いました。
検察官:金室長が、「分かった。やってみよう」と言ったそうですが。
金載圭:そうです。
検察官:金室長が、「事態をどうやって説明するのか」と訊いてきたそうですが。
金載圭:「閣下が過労で倒れたとでも言って下さい」と言いました。
検察官:金桂元被告に、「私はやると言ったらやる」と言ったのですか?
金載圭:私はそんな事を言ったりはしません。
検察官:金桂元被告は犯行に積極的に加担したのですか?
金載圭:そういう事はありません。
検察官:殺害直後、裸足にワイシャツ姿のまま執務室に駆け込んだのですか?
金載圭:たまたま靴が見当たらなかったので、そのまま行きました。走った訳ではなく、早く歩いたというだけです。
検察官:食堂に行って、「水、水」と言ったそうですが。
金載圭:水を飲んだ事はあります。
検察官:その後どうしたのですか?
金載圭:陸軍参謀総長と金正燮次長補と一緒に車に乗りました。
検察官:総長と次長補が食事をしている所に行って、最初に何を話しましたか?
金載圭:「大事が起きたので、車に乗って下さい」と言いました。
検察官:車には誰が乗ったのですか?
金載圭:陸軍参謀総長、金正燮中央情報部次長補、朴興柱大佐と私が乗りました。
検察官:車に乗って情報部へ行こうとしたのですか?
金載圭:「行こう」とだけ言いました。私の車だったので、その言葉に運転手が情報部に行くのだろうと思って、南山の中央情報部に向かいました。
検察官:市庁前、新世界百貨店、南山を抜けて、陸軍本部まで来る途中、車の中でどのような会話をしたのですか?
金載圭:鄭総長が、「何があったのか」と尋ねてきたので、親指を立てて下に向ける仕草をしました。
検察官:鄭総長の、「閣下が亡くなられたのか。外部の者の仕業か、内部の者か」という問いに、返答しなかったそうですが。
金載圭:はい。
 この時、金載圭被告は、あまり憶えていないと言って、初めて捜査過程での陳述書を読んでくれるように頼んだ。検察官が捜査記録を読み上げると、「そうだ」と答えた。

検察官:車が世宗ホテル前を通った時、鄭総長は「陸軍本部に行こう」と言ったそうですが。
金載圭:そうです。
検察官:その時、被告人は朴興柱被告に、「どうするか」と尋ね、朴被告が、「陸本が良いです」と答えたので、南山から陸軍本部に行ったそうですが。
金載圭:そうです。
検察官:その程度の計画しかしてなかったのですか?
金載圭:私は戒厳令を宣布して、陸軍参謀総長に三権を掌握させ、戒厳司令部を革命委員会に変えようとしたのです。
検察官:鄭総長が言う事を聞かなかったら、どうするつもりでしたか?
金載圭:拒否はしないだろうと思ってました。
検察官:もし拒絶されたとしたら、どうしてましたか?
金載圭:それは言えません。
 この時、検察官が、発言を阻止。

検察官:脅迫しようとしたのは事実ですか?
金載圭:そうです。
検察官:陸軍本部バンカーに到着した時刻は?
金載圭:午後8時頃でした。
検察官:バンカーでは、何を行なったのですか?
 金載圭被告は記憶を辿っているのか、返答に詰まっていた。
検察官:バンカーで金桂元被告に電話して、「私です。来て下さい」と言ったのですか?
金載圭:金室長が、「総理と一緒にいるので、青瓦台に来てくれ」と言うので、陸軍本部に来るように言いました。
検察官:大統領の御令嬢
(※長女・朴槿惠)が「父は何処にいるのか」と尋ねてきたので、金桂元被告が、「別の場所にいらっしゃる」とごまかしたが、また尋ねられたらどうしようかと言った時、被告は、「上手くやりましたね」と言ったそうですが。
金載圭:金室長が、保安維持をよくやっているという意味で、そう言ったのです。
検察官:金桂元被告と、二回目の電話では、何を話したのですか?
金載圭:私はそっちに行けないので、総理と一緒に、こっちに来るようにと言いました。
検察官:命令調だったそうですね。
金載圭:強い口調では言ったが、敬語を使っていたし、失礼になるほどではなかった筈です。
検察官:金桂元被告はギョッとして、「解った、行きます」と言ったそうですが。
金載圭:「来る」と言ってました。
検察官:その時、金桂元被告はどう感じたと思いますか?
金載圭:何を感じたと言うんです?
検察官:金載圭被告が鄭総長を人質に捕っているものと思って、金桂元被告は「バンカーへ行く」と言ったそうですよ。
金載圭:私は、そんな話を聞いた事はありませんね。
検察官:長官らが、非常戒厳令や大統領の国葬問題について提議しようとしたら、被告は、「今は保安を維持すべきで、国葬問題について討議している場合ではない」と言ったそうですが。
金載圭:そうです。
検察官:陸軍本部バンカーで、長官らが国防会議室に移動する際に、後から遅れて、金桂元被告と二人だけで話をしたそうですね。
金載圭:金室長には、また、保安を強調して、戒厳司令部の看板を一両日中に、「革命委員会」に変えなければいけないと言いました。
検察官:国防部長官室では、どういった話をしたのですか?
金載圭:陳述書を読んで下さい。
 検察官が陳述書を朗読すると、金載圭被告は「その通りです」と答えた。陳述書の内容は、金載圭被告が、閣僚の前で、非常戒厳令宣布を繰り返し督促したというもの。
検察官:国防長官室で、金桂元被告と向かい合って座り、金桂元被告を睨み続けていたそうですが。
金載圭:必ずしも、そうとは限りません。お互いに目が合ったというだけです。
検察官:
(その間の、事件の経緯を捜査発表通りに朗読している途中で)金正燮次長補に、国内報道を徹底して遮断し、外信を重々に管理するように言ったそうですが。
金載圭:そうです。
検察官:逮捕された経緯は?
金載圭:金桂元が見当たらないので、捜し回っていたら、誰かが外で捜しているというので、出て行ったら待機していた憲兵に逮捕されました。
検察官:閣僚は非常戒厳令宣布に同意したのですか?
金載圭:閣僚らも安保強調には同意していたようです。ただ、総理からその理由を求められましたが、他の長官からはこれと言って異議はありませんでした。
検察官:車室長に対して、普段から、「警護だけやってれば良い」と言っていたそうですが。
金載圭:そんな事は言っていません。
検察官:独り言でも、そのような趣旨で言った事はないですか?
金載圭:○○(※ちょっとマズイ言い回し)でもあるまいし、何でそんな独り言を言ったりしますか。
検察官:警告親書を受けた事はありますか?
金載圭:警告親書を受けた事はありません。弟の不正に関する書信を大統領から頂き、「参考にせよ」と言われた事はあります。警告親書ではありませんでしたが、監査室長に調査を依頼して、大統領に結果を報告しました。その時に、弟が、兄が公職に就いている間は事業を行なわないと話した事を大統領に伝えたところ、「問題もないのに、何故そんな事をしたのか。君は公務員だが、弟は事業家なのだから」とおっしゃっていました。
検察官:その調査を、情報部長の指揮下にある監査室長に任せた理由は?
金載圭:警告親書ではなく、参考書信だったので、監査室長に確認させたのです。
検察官:他の人間に犯行の構想を話した事があったのですか?
金載圭:ありません。
検察官:殺害の構想はどんなものだったのですか?
金載圭:既存の組織をそのまま利用して、3ヶ月から5ヶ月の間に、各市長や道知事、長官級、各軍総長、軍団長、軍管区司令官に、革命議会を構成して委員会を組織、その下に裁判所と検察部を置いて、私が主導しようと考えました。
検察官:国民がついて来ると信じてましたか?
金載圭:10.26挙事は私が起こしたものなので、私には国民に対して訴える力があります。私自身が直接関与しなければ事は成り立ちません。
検察官:大統領殺害については隠蔽しようとしたのですか?
金載圭:隠蔽し続ける事はできませんが、72時間だけは保安を維持しようと思いました。
検察官:犯人である事を隠して、戒厳令を宣布する計画だったのですか?
金載圭:こちらの中(中央情報部を意味するような言い方)だけで、72時間の間、隠蔽しようとしました。
検察官:中央情報部安全局要員が捜査して保安を維持し、調査中だと伝えながらも、事態の流れによって発表しようとしたと言っていますが…。
金載圭:そうです。
検察官:犯行決行の時期が前後していて紛らわしい。最初は、宮井洞公館の二階の手洗いで10月26日午後7時5分に決心したが、次には、車室長から連絡を受けた後の、当日午後4時10分と言っています。

(※原文は以降、省略されている)

 このように、検察官の審理が終わった時刻は午後3時45分だった。
 審理が終わると、裁判長は20分間の六次休廷を宣言した。
 六次休廷に入る前に、弁護人は、金載圭被告が座って陳述できるように要請したが、本人は立ってすると言って聞かず、最後まで座ろうとしなかった。陳述の間、朴大統領と車室長を撃つヤマ場では、右手を上げて「パンパン」と発砲する真似をするなど、身振り手振りを多く交えて話した。
 再開時刻は午後4時12分。


裁判長:弁護側の反対尋問の番になりました。訴訟の経緯上、重複したり、公訴事実と関係ない部分は省略するようにお願いします。
金濟亨弁護士:被告人全員に対する検察審理が終わった後に、弁護人の反対尋問をします。その方が訴訟経緯上良いでしょう。
裁判長:後ほど、補充尋問を行なう機会を与えるので、今行なって下さい。
金正斗弁護士:我々は全ての事を総合して行ないます。我々は捜査記録を見る事ができませんでした。反対尋問資料は金載圭被告の陳述だけです。ことに、規定されている弁護権が冒されています。
李炳勇弁護士:金桂元被告の検察審理を聞いてからこそ、金載圭被告に尋問を行なえるのです。


 このような、反対尋問拒否の後、15分間の休廷があり、午後4時35分に再開。

法務士:裁定申請などで公判が遅れました。検察尋問で事件内容が明るみになったのに、反対尋問は、弁護側から障害が出て進行できません。
李敦明弁護士:法廷の雰囲気があまりにも強圧的です。法廷とは、慣例通り進行しなければなりません。事実、我々は、今日は慣例通り反対尋問はないものと考えて準備をして来てません。
法務士:今日取り合えず反対尋問を行ない、細かい部分については次に機会を与えます。
李敦明弁護士:機会を与えて頂けないと思って言ったのではありません。再考して頂ける事を願います。
 (法廷に笑いが起こる)
洪性宇弁護士:弁護団が意見を集約して、組織的に反対尋問を行なうのが、訴訟経緯上、有益な事です。

 午後4時45分、再び休廷の後、4時55分再開。

法務士:次回にまた機会を与えますので、今、反対尋問を行なって下さい。
李敦明弁護士:敢えてしろとおっしゃるのなら行います。しかし、時間を頂けたら、次回はもっと進行し易くなります。
法務士:時間に囚われないで行なって下さい。

 金載圭の弁護人による反対尋問。以降は、弁護人と金載圭被告との一問一答。

金正斗弁護士:質問しますので、被告は座って答弁して下さい。

 しかし、金載圭被告は終始立ったままで答弁。

金正斗弁護士:本籍地は?
金載圭:慶尚北道善山邑里門洞○○です。
弁護士:そこが出生地ですか?
金載圭:三代に渡って、そこで生活していました。
弁護士:父親の名前は?
金載圭:金炯哲で、私は長男です。
弁護士:善山国民学校(※小学校)と安東農林学校に通っていた時の成績は?
金載圭:上位に属していました。
弁護士:日本軍の幹部候補生をいつ志願したのですか?
金載圭:1943年に志願しました。任官前に解放
(※終戦)になって、候補生として終わりました。主な特技は航空兵科でした。
弁護士:陸軍士官学校には、いつ入学したのですか?
金載圭:解放後一年間、善山国民学校の教師をした後に、46年9月に入学しました。
弁護士:二期生で朴大統領と同期ですが、士官学校在学中は親しかったのですか?
金載圭:朴大統領とは同郷ですが、彼は亀尾出身で、私は善山出身なので、特に胸襟を開いて語り合うほどの関係ではありませんでした。
弁護士:師団長、管区司令官、保安司令官を歴任したのは、朴大統領との関係によるものですか?
金載圭:それもありますが、序列に伴う昇進だと思います。
弁護士:家族構成は?
金載圭:4年前に父が亡くなり、現在は老母と弟が2人、妹が5人います。
弁護士:軍隊に志願した理由は、そこにあるのですか?
金載圭:志望動機は、軍が生理的に合っていた為で、男らしい抱負や気質を発揮できると考えたからです。


 こういった進行中に、「公訴事実と関係ない陳述は中止せよ」との制止を6回も受ける事となった。また、金載圭被告が犯行動機についての発言をしようとすると、法務士から、「ここが憲法講義室である事を知っているか」と制止を受けた。金載圭被告が陳述を続けようとすると、金永先裁判長が、「被告が国家安保に関係する発言をしている。少しの間、休廷する」と宣言した。
 10分の休廷の後、午後5時44分、ついに非公開裁判が宣言された。
 裁判部は、「金載圭被告人は前中央情報部長で、国家機密に属する保安業務に携わっていた為、弁護人の反対尋問での被告の陳述内容には、国家の安全保障、及び秩序安定を脅かす惧れのある事項が、かなり含まれている」、「金載圭被告と弁護団、及び検察官を除く残り全員を退廷させる事を命じる」と宣言し、1分の休廷に入った。
 午後6時、裁判が非公開になった事について、弁護側は、公開裁判を受ける権利を保障した憲法に違反していると主張。口頭で異議申し立てを行なったが、棄却された。更に、弁護側は、金載圭被告が疲労しており、反対尋問ができないと延期を要請。被告自身も、「疲れている」と言ったので、検察官が医師に健康診断を依頼するように裁判部に要請、金被告の健康診断が行なわれた。
 午後7時10分開始。裁判部は、「軍医官の診断結果、健康に異常はないので、裁判を続行する」と宣言した。弁護団が、「陳述し難いほどに疲労困憊している被告人を、これ以上尋問する事はできない。次回の補充尋問の機会を前提に、本日の反対尋問は止めにする」と言うと、今度は、秘密裏に裁判部による尋問が始まった。事実尋問が終了した時刻は、午後7時45分。張り詰めた緊張と熱気の中、休廷は何と12回に及んだ。第2回公判はこのようにして終了した。

 第2回公判が行なわれた、この日、戒厳司令部は、金載圭被告の不正行為を捜査、発表した。
[ 第3回公判へ続く ]
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